1892年にセイコー初の掛時計を製造して以来、世界に誇る時計のトップブランドとして歩み続けてきたセイコーグループ株式会社(以下セイコー)。今回はその創業の地である銀座で、時計の歴史にまつわる貴重な品々を展示している「セイコーミュージアム 銀座」をご紹介します。
セイコーのミュージアムということで、同社の歴史を語る上で欠かせない、国産初の目覚まし時計や自社一貫生産の腕時計・グランドセイコーシリーズ、そして時計のあり方を変えた世界初の市販クオーツ式腕時計など、様々な製品の数々を展示しています。
また同社の製品だけでなく、江戸時代に使われていたからくり仕掛けの和時計や18世紀の貴族たちが持っていたような懐中時計、さらには日時計まで! まさに人間と時間の関わりを知ることができる内容となっています。
時間に追われがちな現代、変わらぬ時を刻み続けてきた時計たちを知ることで、人間の営みに思いを馳せてみてはいかがでしょう。
2階フロアはセイコーの創業者である服部金太郎氏の歩みと、創業当時の製品を中心とした展示が行われています。当時取り扱われていた年代物の海外製時計や、国産初の時計など貴重な品々がズラリ! そんな中で、異質な存在感を放つのが「関東大震災で焼けた時計」です。これは関東大震災のとき、セイコーの前身である服部時計店で修理のためにお客様からあずかっていた時計が焼け溶けてしまった塊。この未曽有の災害に対し、服部金太郎は預かり証なしで新品への交換を行ったことで評判を呼びました。後の成長へと続く、信用を築き上げたエピソードです。
遠目ではオブジェのような懐中時計の塊。誠実な対応が消費者の信頼を得る、セイコーの理念を表す展示物といえるもの。
1899年製造の国産初の目覚まし時計。真鍮製のケースにニッケルメッキを施し、錆びにくく海外にも普及したそうです。
機械式時計を作る上で一番大事な「てんわ」に穴をあけてねじ穴を作る機械。こちらは昭和初期に自社開発したものです。
時計を自社生産する前、流通していた海外製の時計たち。腕時計が普及する前、懐中時計が主流の時代でした。
現代のような時計が生まれる以前、人々は太陽の動きや水の流れ、物が燃えるスピードで時間の流れを把握していました。それから錘(おもり)やゼンマイなどを使った機械式時計が誕生。より複雑な機構へと発展し、正確な時間を共有するようになっていきます。
このフロアはそんな時計誕生以前の日時計や水時計から、日の出から日没を基準にする江戸時代の「不定時法」に対応した機械式時計まで、時計が生まれて進化していく過程を知ることができる展示です。
重力で錘が引っ張られる力で歯車を回す「鉄枠塔時計」。展示品は1500年頃に作られた物で、世界最古の機械式時計と同じタイプ。
18~19世紀の美しい装飾付の懐中時計。ブロンズ像と組み合わさった置時計など、宝飾品や美術品の要素も加わっていきます。
こちらの「二挺天府目覚付袴腰櫓時計」は、西洋時計の技術で江戸時代の「不定時法」に合わせて作られた日本独自の時計。
GPSがない時代、船の現在位置を知るために正確な時間を知ることが必要でした。こちらの「経線儀」はそんな船用の時計です。
第二次世界大戦を乗り越え高度成長期に入ると、セイコーはより精密な時計の開発を進めていきます。1967年に機械式時計の最高峰であるヌーシャテル天文台コンクールで上位入賞、翌年には市販クロノメーターを調整して73個が入賞するなど驚異的な精度を証明。
そして1969年、時計業界の常識が一変したのが、セイコーが発売した世界初のクオーツ式腕時計「クオーツアストロン」の登場です。
機械式時計の100倍の精度を誇るクオーツ式時計が小型化・実用化されたことで、時計の多様化がさらに進んで行ったできごとでした。
当時は検定用の特注品が普通だった天文台クロノメーターを市販した「ニューシャテル天文台クロノメーター検定合格品」。
1969年に発売された、世界初のクオーツ式腕時計「クオーツアストロン」。そのお値段は、自家用車1台が買える金額でした。
壁面に初期のクオーツ時計を原寸大で再現。この大きさの機構を腕時計のサイズに収め、時計業界に革命を起こしました。
クオーツ式腕時計が実現し、様々な機能を持った腕時計が登場。右の「テレビウオッチ」は最小のテレビとしてギネス入りも。
最上階の5Fには、機械式の動力源にクオーツ式の制御を組み合わせたセイコー独自の最新機構「スプリングドライブ」を搭載した腕時計から、正時になると音楽と共に人形たちが顔を出す家庭用からくり時計まで、用途やシチュエーションに合わせた様々な時計を展示。
一見すると時計には見えない置時計の「ピラミッドトーク」や、指輪やペンダント型のレディースウオッチなど、いま見ても秀逸なデザインの時計を見ることができます。ズラリと並んだ歴代「グランドセイコー」も壮観ですよ。
自動で時刻修正をする「狂わない時計」として1963年に登場した「ラジオ電波時計」。「衛星電波時計」の元と言える存在です。
1960年、当時の最高峰だったスイスの高精度腕時計の規格に準拠する、国産初の腕時計「初代グランドセイコー」が登場。
1999年に発売した「スプリングドライブ」は、機械式時計のゼンマイを動力にクオーツの制御を組み合わせた独自機構を搭載。
中国・北宋時代の時計に用いられた機構を再現し、黄金のレールを転がる球体が時を刻む「デコール 悠久」はお値段480万円。
B1はコンマ以下のタイムが運命を分ける、過酷な状況で使われる時計が集められたフロア。
1960年代からストップウオッチの開発に力を注いだセイコーは、1964年の東京オリンピックで公式時計に採用。世界初の水晶式デジタルストップクロックを投入し、オリンピックの成功に貢献しました。
ほかにも、極限の宇宙空間での船外活動のために作られた、スプリングドライブ搭載の腕時計や、開発中の試作品のパーツやバンドなど貴重な品々を見ることができます。
9.58のタイムが刻まれたクロックは、2009年の世界陸上でウサイン・ボルトが世界新記録を出したときに使われた実物です!
この水泳の飛び込み台は、1992年に岩崎恭子選手がバルセロナオリンピックで金メダルを獲得したときのもの。
ショーケースに並ぶのは1964年の東京オリンピックで使われたストップウオッチ。どれがどの競技のものか、わかりますか?
壁面には銀座の象徴でもある和光の時計塔文字板の原寸模型が。ひと息付くのにぴったりなフォトスポットです。
1階には、ここでしか買うことのできないグッズを販売するミュージアムショップを設置。コレクションを収録した図録をはじめ、来館の記念やおみやげを買うのにオススメです。
受付を済ませてすぐ正面のモニターでは、創業者「服部金太郎生誕160年記念動画」を上映。入退館のタイミングにぜひご覧ください。
また、正面入り口の右にあるのは、高さ5.8メートルの大型振り子時計「ロンド・ラ・トゥール」。毎正時と30分に流れる音楽に合わせ、人形と光の演出が銀座の夜を華やかに彩ります。
「常設展示図録(3300円)」は日本語版と英語版があり、展示では見ることのできない内部構造の写真も収録しています。
時計モチーフの図柄があしらわれた、上品なグッズがいっぱい。「布トートバッグ(1650円)」は歯車のワンポイント入り。
「タイマークロック(大1万450円/中6500円/小3850円)」は、陸上部の中高生へのプレゼントにオススメです。
振り子時計やピラミッドトーク、ミュージアムロゴが入った「時の彩(ときのいろ) 和三盆」は1080円。
モデル:内藤沙季(S.D.B.B.)