今回ご紹介するのは、大和田公園入口（東）交差点から大和田公園通りを岩槻方面へ進むこと約650メートル、進行方向左側にある「中華そば 螢」です。
2004年に創作系中華そばのお店として大和田にオープン。節系と鶏のWスープに熟成しょう油を使った「中華そば（950円）」や、鶏白湯スープをベースに沖縄の自然塩を使った「とりそば（950円）」、エビやカニ、ホタテのエキスをふんだんに使った「海の味噌そば（1000円）」に、節系のダシと鶏白湯の混合スープに自家製しょう油を合わせた「つけそば（1000円）」を加えた4種類のメニューを提供。それぞれに特徴のあるスープに合わせて異なる国産小麦の麺を使うなど、創作系ならではのこだわりの味で多くのファンを集め続けています。
料理同様に個性的なのが店構えで、土壁作りの建物は伝統的な日本の農家といった雰囲気。照明が抑えられた店内は、現代の生活に慣れた目には一瞬薄暗く感じられますが、この明るさに慣れると余計な情報が遮断されて気持ちが落ち着くのと同時に、目の前のお料理に集中して向き合える効果もあります。周囲を畑に囲まれた立地に馴染んだ建物からは、創作系のお店にありがちな人為的な演出が感じられず、まるで「田舎の実家に帰ったような安心感」で心地よい空間となっています。
店長の齋藤さんが「飽きのこない味も含め、大和田という土地に親しまれるお店であることを心がけています」というように、取材時にも小さなお子様をつれた母子から、杖をついたおじい様の手を引くお孫さんと思われる三世代のお客様が見られ、幅広い客層からの支持を受けている「中華そば 螢」。“創作系の新興店”から約20年の時を経て、“老舗”への一歩を踏み出した名店の味をお楽しみください。

今回「中華そば 螢」でいただいたのは、齋藤店長が「最初にお試しいただきたい」という、しょう油ラーメンの「中華そば（950円）」。 お料理が提供されてまず感じるのが器からいっぱいに漂う魚介の香り。茶褐色のスープを一口すすると、思わず魚粉がトッピングされていたかと錯覚するほど節系の香りが口いっぱいに広がります。これは香りの高い秋刀魚節を中心に、鯖節や鰹節、根昆布などで取った魚介ダシだからこそ持つ存在感。節と昆布だけでは厚みに欠けるところを、鶏ベースの動物系ダシとのWスープにすることで、しっかりとしたボディも持たせています。サンマと聞くと独特のクセや青臭さが気になるところですが、秋刀魚節から丁寧にスープを取られているためか、食欲をそそる香りと青魚特有の旨味だけが引き出されていてクドさはゼロ。この芳醇な魚介の香りに続くしょう油ダレの旨味とコク、大豆由来の甘味も後を引く旨さに仕上がっています。スープの色から濃い目かと想像しましたが、旨味こそ濃厚でもキレの良さと程よい塩加減で単体でもぐいぐい飲み進められるほど！
ここに合わせる麺は、国産小麦を使った太めのちぢれ麺。縮れた麺は、すするたびに小気味よく暴れてスープの香りを強調し、もちもちの食感を噛み締めるごとに国産小麦の甘みがしょう油の旨味とシャッフルされて口の中いっぱいに広がっていきます。
いただくときに注意してほしいのが、トッピングの上に乗せられた刻み柚子。食べ始めはそのまま落とさないようにいただいて、折り返しあたりでスープに落とすと変化が楽しめます。ラーメンに柑橘系の変化は合う合わないがわかれますが、元々サンマに柚子やカボス、スダチなどの柑橘物を合わせるのは定番だけに、この「中華そば」との相性はバッチリ！　普段は脇役に回る海苔や長ネギも、こうした“和の組み立て”の中では主力級の存在感を放っています。
厚みのあるチャーシューは、トロトロになった脂とホロホロ崩れる赤身から肉を食べる満足感がしっかり得られるだけでなく、柚子の香りがほんのり移ってうれしい変化も楽しめます。
オープンから20年近くたってなお、地元・大和田はもちろん遠方からも多くのお客様を集める「中華そば 螢」の「中華そば」。長年に渡り愛され続けているのも納得の一杯です。